
スクールの広告の前に、現実を知っておいてほしい
「未経験からエンジニア転職」の記事を読むと、ほぼ全てがプログラミングスクールへの誘導で終わっている。
それ自体は悪いことではないが、「スクールに通えば未経験からエンジニアになれる」という話は、半分しか本当でない。
現実は少し複雑だ。スクール修了後、転職できたとしても、最初の勤め先の多くはSES(客先常駐型のシステム開発会社)だ。入社後の業務は想像と違うかもしれない。年収は低い。成長できる環境かどうかは運と会社選びに依存する。
このことを最初から知っていれば、後悔しない選択ができる。この記事では、未経験エンジニア転職の現実をスクール誘導なしで正直に書く。
未経験エンジニアの「現実のルート」
IT業界未経験者がエンジニアになるルートは、大きく3つに分かれる。
ルート1:SES企業に未経験採用で入社する
最も一般的なルートだ。SES企業の多くは未経験者採用を積極的に行っており、社内研修を提供している。
現実:
- 入社後3〜6ヶ月は研修期間(Java・SQL・ITパスポートレベルの基礎)
- 研修後は客先に常駐し、テスト業務や保守から始まる
- コードを書く業務が始まるまでに6ヶ月〜1年かかることがある
- 年収は250〜300万円からスタートが多い
向いている人:
- まずIT業界に入ることを優先したい
- 独学よりも研修で体系的に学びたい
- 転職活動の時間・お金を節約したい
ルート2:プログラミングスクールを経由する
スクールで3〜6ヶ月学んだ後、転職活動をするルート。
現実:
- スクールの費用は30万〜70万円程度
- スクール修了後の転職先もSESが多い(結局ルート1に合流する)
- ポートフォリオが仕上がっていれば、独学でも同じ就職先を目指せる
- スクールの「転職保証」は条件が厳しいことが多い
ルート3:独学でポートフォリオを作り直接応募する
スクールを使わず、独学でスキルを身につけて応募するルート。
現実:
- 費用はほぼゼロで済む(教材費程度)
- 自己管理ができないと挫折しやすい
- 実際に動くWebアプリを作れれば、書類選考を通過できる
- こちらもSES企業が転職先の大半を占める
どのルートを選んでも、最初の勤め先のかなりの割合がSESになるというのが現実だ。これをネガティブに捉える必要はない。SESはデメリットだけでなく、未経験者が実務経験を積む場として機能している。

なぜ「SES入社が現実の第一歩」なのか
多くの未経験者にとって、SES入社が最初のキャリアの入口になる理由は明確だ。
未経験を採用するインセンティブがSESには存在する
SES企業のビジネスモデルは「エンジニアを育てて、客先に常駐させる」ことで成立している。そのため、未経験者を採用・育成して戦力化するフローが整備されている企業が多い。
一方で自社開発企業は、即戦力を求める傾向が強い。「未経験者を研修で育てる余裕がない」という企業が多く、未経験者の採用は難しい。
未経験者がSESで得られるもの
| メリット | 内容 |
|---|---|
| 研修 | Java・Python・SQL等の基礎を体系的に学べる |
| 実務経験 | 「経験あり」という状態になれる |
| 多様な現場 | 複数の業界・技術スタックに触れる機会 |
| 転職の踏み台 | 2〜3年後の転職市場での選択肢が広がる |
SESを「最終目標」にする必要はない。「未経験からエンジニアになるための経由地」として使いながら、2〜3年後に自分の目指す方向に転職するというルートが、現実的で再現性が高い。

SESに入社してからが本番
SESに入社できたとしても、成長できるかどうかは環境と自分の動き次第だ。
「テスト業務しかやらせてもらえない」「現場に行ってもスキルが身につかない」という声も多い。これはSES特有の問題だが、事前に会社を選ぶことでかなり防げる。
SES優良企業の選び方については、後述するリンク先を参考にしてほしい。
SES優良企業の見分け方|還元率・面接で見抜く7つの質問
還元率70%以上の企業の見つけ方と、面接で確認すべき質問リスト
入社後に待つ現実——「想像と違う」を予防する
未経験でSESに入社した後に多い「こんなはずじゃなかった」を先に整理しておく。
「コードを書けない期間」は想定より長い
研修後に初めての現場に配属されても、いきなりコードを書くことは少ない。
最初の6ヶ月〜1年はテスト業務・ドキュメント作成・既存システムの理解が中心になるケースが多い。「プログラマーになりたい」という気持ちが強い人ほど、このギャップにショックを受ける。
「コードを書けない期間」の過ごし方:
- 業務外でアウトプット(個人開発・ブログ)を継続する
- 現場のコードを読んで理解を深める
- 基本情報技術者試験など資格の取得を目指す
- 自分がやりたい技術領域を決めて、独学で深める
この期間に何もしないと、1年後に「スキルが全然ない」という状態になる。業務だけに頼らず、自主的な学習を続けることが重要だ。
年収は低い——でも「伸びしろ」がある
未経験入社の初年度年収の現実:
| 企業タイプ | 初年度年収相場 |
|---|---|
| 中小SES(還元率低め) | 250〜280万円 |
| 中規模SES(標準的) | 280〜320万円 |
| 高還元SES | 320〜360万円 |
これは低い。しかしエンジニアの年収は実務経験年数と技術力に連動して上がる業界だ。
3年後に転職することを前提にすると、見え方が変わる。
| 時期 | 年収の目安 |
|---|---|
| 未経験入社1年目 | 260〜320万円 |
| 3年後(スキルあり) | 350〜450万円 |
| 5年後(転職後) | 450〜600万円 |
最初の低い年収を「投資期間」と捉えられるかどうかが、未経験からのキャリアを継続できるかの分岐点になる。
客先常駐のストレスは人によって大きく違う
SESの特徴である「客先常駐」は、向き不向きがある。
毎回異なる現場に行くことをポジティブに捉えられる人(新しい環境が刺激になる・様々な業界知識が身につく)には向いている。一方で、一つの場所に定着したい・コミュニティを作りたいという人には精神的な負荷が高い。
自分がどちらのタイプかを理解した上で、SESに入社するかどうかを判断してほしい。
SES1年目で辞めたい|判断基準と第二新卒を活かす戦略
SES1年目の「辞めたい」を冷静に判断するフレームワーク
3年後のキャリアパス——SESを踏み台にする戦略
SESに入社することを選んだとして、3年後にどこを目指せるかを具体的に見ておこう。
3年後に使える「SES卒業カード」
SESで3年間実務経験を積むと、転職市場での選択肢が大きく広がる。「実務経験3年以上」を応募条件にする求人の多くに応募できるようになるからだ。
3年後に現実的な転職先:
| 転職先 | 必要なスキル・経験 | 年収相場 |
|---|---|---|
| 自社開発(中小) | ポートフォリオ+実務経験 | 400〜550万円 |
| 大手SIer | 業務系の設計経験 or 資格 | 450〜600万円 |
| 社内SE | 業界知識+コミュニケーション力 | 380〜500万円 |
| 高還元SES | 実務経験とスキル実績 | 400〜550万円 |
SES3年目の転職については詳しい記事があるので、合わせて読んでほしい。
SES3年目は転職のベストタイミング?データで見る市場価値と年収UP戦略
3年目でどこに転職できるか、具体的なデータと戦略を解説
3年間で積み上げるべきもの
SES入社後の3年間で、以下を意識的に積み上げていくと転職市場での競争力が上がる。
- 主要言語の実務経験(Java・Python・JavaScript のいずれか1つを軸に)
- Git/GitHub でのチーム開発経験
- 基本情報技術者試験(できれば応用情報も)
- 個人開発のポートフォリオ(GitHub 公開)
- 業界知識(現場の業界(金融・医療・製造)を深掘りしておくと次の転職で強みになる)
このリストの全部を3年でこなすのは難しいかもしれないが、意識しているかどうかで3年後の状況が全然違う。

プログラミングスクールは必要か?正直な答え
「スクールは必要か?」という問いへの答えは「あなたの状況による」だ。
スクールが有効な場合:
- 独学で挫折した経験がある
- 体系的なカリキュラムと講師のサポートが必要だと感じる
- 転職活動のサポート(ポートフォリオレビュー・模擬面接)が欲しい
- 費用を出せる余裕がある
スクールが不要な場合:
- 独学でWebアプリを作れる程度のスキルがある
- 入社後の研修で学ぶことに抵抗がない
- 費用をかけずにSESの未経験採用で入社する方が合理的だと判断できる
スクールを否定はしない。ただし「スクールに行けばエンジニアになれる」という思い込みは持たないでほしい。スクールはあくまでも学習環境の1つで、入社後の成長は自分次第だ。
スキルを体系的に学びながら転職を目指したい場合は、個人レッスン形式のスクールが向いている。

転職後に後悔しないための事前準備
未経験でエンジニア転職を目指すなら、以下の準備をしてから動くことをすすめる。
最低限のコーディング体験をしておく
「プログラミングに全く触れたことがない」状態で転職活動を始めるのはリスクが高い。面接で「プログラミングをやってみた経験」を聞かれたときに答えられないと印象が悪くなる。
まずはProgate・ドットインストールなどの無料サービスでHTML・CSS・JavaScript・Pythonのいずれかを1ヶ月触ってみてほしい。「向いているかどうか」の判断もできる。
SES業界の構造を理解してから入社する
SESが「会社と客先の二重構造」になっていること、還元率が年収に大きく影響することを理解した上で入社先を選ぶことが重要だ。
還元率70%以上・案件の希望を聞いてくれる・研修期間中も給与がある、という条件を確認してから入社先を決める。
3年後の転職を前提にしてキャリアを設計する
未経験で入社した最初の会社が「最高の職場」である必要はない。「3年後にどこへ転職するか」を最初から考えて、その逆算でスキルを積み上げていく。
この設計があるかどうかで、同じSESに入社しても3年後の状況が大きく変わる。
まとめ:現実を知ってから動くことが最短ルート
未経験からエンジニアになれるかどうかの答えは「なれる」だ。ただし、現実を知った上で動くことと、夢だけを持って動くのでは、3年後の状況が全然違う。
整理すると:
- 現実のルートはSES入社が多い——スクールを経由しても同じ
- 最初の2年は修行期間——年収は低く、コードを書けない期間がある
- 3年後には選択肢が広がる——実務経験3年で転職市場の扉が開く
- 優良SES企業を選ぶことが重要——還元率・研修内容・案件の質は会社次第
- スクールは必須ではない——独学でも入社できる。業務後の自主学習が真の差になる
「エンジニアになりたい」という気持ちがあるなら、現実を知ることは後悔を減らすための準備だ。この記事が、あなたのキャリアの選択に役立てば幸いだ。
