
入社前に求人票で「残業月平均20時間」と書いてあった。でも実際に入ってみたら月60時間以上になった——このような経験をしたエンジニアは少なくない。
IT業界の残業問題は複雑だ。同じ「エンジニア」でも、SIerのプロジェクトマネージャーと社内SEのシステム担当では、残業時間が月50時間以上違うことがある。
求人票の「残業月平均○時間」は、プロジェクトの閑散期を含めた平均値だったり、リリース直前の繁忙期を除いた数値だったりすることがある。転職先を選ぶ上で、企業タイプ別の残業の「実態」を知っておくことは不可欠だ。
本記事では、SIer・SES・自社開発(スタートアップ/大手)・Web系・社内SEの5タイプを「月平均残業時間」「残業代の実態」「休日対応の頻度」の3軸で比較する。
この記事でわかること:
- IT企業タイプ別の残業時間の現実
- 残業が多い時期と少ない時期の違い
- 残業が少ない企業を転職で見分ける方法
- 残業を減らすキャリアの方向性
本記事では、SIer・SES・自社開発(スタートアップ/大手)・Web系・社内SEの5タイプを詳しく解説する。まず5タイプの概要を表で比較しておこう。
| タイプ | 月平均残業時間 | 変動幅 | 残業代 | 休日対応 |
|---|---|---|---|---|
| 大手SIer | 40〜60時間 | 大(0〜100時間) | 大企業は全額支給 | 月1〜2回程度 |
| SES | 20〜40時間 | 中(現場による) | 企業次第 | 少ない |
| 自社開発(スタートアップ) | 40〜70時間 | 大 | 支給されるが上限あり | 月2〜4回 |
| 自社開発(大手メガベンチャー) | 20〜40時間 | 中 | 全額支給 | 少ない |
| Web系(技術特化) | 20〜35時間 | 小 | 全額支給 | 非常に少ない |
| 社内SE | 10〜25時間 | 小 | 支給 | 障害時のみ |
この表はあくまで傾向値だ。同じ「自社開発」でも、企業の規模・フェーズ・文化によって大きく変わる。
SIer(システムインテグレーター)の残業実態
プロジェクトフェーズによる振れ幅が最大
大手SIerの残業は「プロジェクトのフェーズ」によって極端に変化する。これがSIerの残業実態を一言で表現しにくくしている要因だ。
| プロジェクトフェーズ | 残業時間の目安 |
|---|---|
| 要件定義・基本設計 | 月20〜40時間 |
| 詳細設計・開発 | 月30〜50時間 |
| 結合テスト・UAT | 月50〜80時間 |
| 本番移行・直後の安定期 | 月60〜100時間 |
| 安定運用フェーズ | 月10〜30時間 |
**重要なのは、「本番移行前後」に集中する残業だ。**大規模システムの移行プロジェクトでは、本番2週間前から深夜・休日作業が当たり前になる現場も多い。
大手SIerと中小SIerの違い
大手SIer(NTTデータ、富士通、日立など)は、残業管理が厳格化されており、残業代は全額支給が標準だ。2019年の働き方改革以降、月45時間の上限を設ける取り組みも進んでいる。
一方、中小SIerは残業管理が緩い傾向があり、サービス残業が発生するケースもある。特に多重下請け構造の末端に近い企業ほど、この傾向が強い。
SIerでブラック企業に当たらないために
SIerへの転職を検討する場合、以下の情報を面接で必ず確認しておくことを推奨する。
- 「直近のプロジェクトで最も残業が多かった月の時間数」
- 「36協定の特別条項の発動頻度」
- 「残業代の計算方法(固定か実費か)」
これらの質問に対して、具体的な数字で答えてもらえない場合や、「プロジェクト次第なので」と曖昧にされる場合は、追加で調べる必要がある。

SES(システムエンジニアリングサービス)の残業実態
残業時間は「現場(客先)」が決める
SESエンジニアの残業時間は、所属する会社ではなく**配属される現場(客先)**によってほぼ決まる。同じSES企業に所属していても、現場が変わると残業時間が月50時間以上変わることがある。
現場タイプ別の残業傾向:
| 現場タイプ | 残業傾向 |
|---|---|
| 大手SIerの下請け | SIerのフェーズと連動(繁忙期に集中) |
| 官公庁・公共系 | 比較的安定。月20〜40時間が多い |
| 金融系(メガバンク) | 定期的なシステム更新時期に集中 |
| 事業会社の社内システム | 安定しているが突発障害あり |
| スタートアップ常駐 | 会社のフェーズによって激変 |
SESで残業を抑えるための「現場選び」
SES企業に所属している場合、残業を減らすためには「現場を選ぶ」という視点が重要になる。
残業が少ない現場の特徴:
- 官公庁系・公共系のシステム(予算管理が厳格なため残業が出にくい)
- 安定運用フェーズのシステム(新規開発がなく変動が少ない)
- 契約に「残業上限時間」が明記されている現場
残業が多い現場の特徴:
- 新規開発・大規模リニューアルの末期フェーズ
- 障害が頻発しているシステムの保守
- 人員不足で「残業前提」になっている現場
SES企業の営業担当に「残業の少ない現場を希望している」と明確に伝えることは、入社後のコントロールの最も有効な手段だ。
自社開発企業の残業実態|スタートアップと大手で180度違う
自社開発企業は「SESより残業が少ない」というイメージを持つエンジニアも多いが、実態は企業のフェーズ・規模によって大きく異なる。

スタートアップの自社開発:繁忙期は月60〜80時間超えも
成長フェーズのスタートアップでは、「速く出す」という圧力が常に存在する。競合他社よりも先にリリースすること、投資家へのデモに間に合わせること——これらが残業の主な原因だ。
スタートアップ残業の特徴:
- 「自分のプロダクト」という当事者意識が、自発的な長時間労働を生む
- 「残業しているから成果を出している」という文化が醸成されやすい
- 少人数のため一人が倒れると代替が効かない
- 成長フェーズは月60〜80時間超えが常態化することもある
スタートアップへの入社を検討する場合は、現在の開発フェーズ(まだ初期開発中か、安定運用に入っているか)を確認することが残業の予測に役立つ。
大手メガベンチャーの自社開発:残業管理が整備されている
メルカリ、サイバーエージェント、DeNAなどのメガベンチャー、またはGAFAMの日本拠点では、残業管理が比較的整備されており、月20〜40時間程度に抑えられていることが多い。
大手自社開発の残業管理の特徴:
- フレックスタイム制・コアタイムなしで自律的な勤務が可能
- 月45時間の上限目安が機能している
- 残業代は全額支給またはみなし残業の上限が適切に設定されている
ただし、プロダクトのリリース直前やインシデント対応時は例外的に残業が増える。
Web系エンジニアの残業実態
技術特化の「Web系」は残業が少ない傾向
ここでいう「Web系」は、受託ではなく自社サービスを持ち、かつフルスタック or 技術特化型の少人数チームを指す。技術ブログを積極的に発信しているような企業だ。
Web系企業の残業が少ない理由:
- エンジニアの自律性が高く、「作業時間 = 成果」という評価ではない
- CI/CDや自動化が整備されており、手作業による残業が発生しにくい
- 優秀なエンジニアを確保するために「生活の質」を競争優位にしている
- リモートワーク・フレックスが充実しており、働く時間の柔軟性が高い
Web系企業の多くは「月残業30時間以下」をアピールしており、実態としてもその水準に近い企業が多い。
Web系企業への転職難易度
一方で、Web系企業への転職ハードルは高い。
- コーディング試験(LeetCode・AtCoder系)が必須の場合が多い
- ポートフォリオの質が評価される
- 「モダンな技術スタック(React/TypeScript/Go/Kubernetes等)」の実務経験が求められる
「残業が少ないから」という理由だけでWeb系を目指しても、転職活動が長期化する可能性がある。自分のスキルと転職先のレベル感を正確に把握した上で動くことが重要だ。
ブラック企業の見分け方については、以下の記事で詳しく解説している。
ブラックIT企業の見分け方|求人票・面接・口コミの3段階チェックリスト
残業が多いブラック企業を入社前に見抜くためのチェックリストと、面接での確認方法。
社内SEの残業実態
IT企業の中で最も残業が少ない職種
社内SEは、自社の情報システムの管理・運用・改善を担う職種だ。IT企業というよりも「事業会社のIT部門」という位置づけだが、エンジニアのキャリアパスとして近年注目されている。
社内SEの残業が少ない理由:
- 自社システムの「安定維持」が主業務のため、急激な繁忙期が生まれにくい
- 外部のクライアント締め切りがなく、自社のペースで進められる
- システムの更改・大型プロジェクトを除けば、月10〜25時間程度が多い
社内SEの「落とし穴」
残業が少ない反面、社内SEには別の課題がある。
- 技術的な刺激が少ない: 新技術の導入が遅く、使う技術が古くなりがちな会社もある
- 年収の天井: IT専業企業と比較すると、給与水準が低い場合がある
- 緊急障害時のプレッシャー: システム障害発生時は深夜・休日でも対応が必要
社内SEへの転職を検討するなら、「業種による技術レベルの差」「障害時の対応文化」「年収レンジ」を事前に確認しておくことが重要だ。
残業を減らすキャリアの方向性
残業を減らすための選択肢は「転職する」だけではない。現職でできることも含めて整理する。
現職でできること
業務効率化で残業を減らす:
- 繰り返し作業の自動化(シェルスクリプト、RPA)
- タスク管理の改善(ボトルネックの特定)
- 早退や有給取得を意図的に練習する(「残業ゼロで帰れる仕事の進め方」を身につける)
上司への相談: 残業が慢性的に多い場合、上司に「業務量の見直し」を相談することは有効な手段だ。特に「このタスクを達成するために必要なリソースが不足している」という形で伝えると、感情的な訴えではなく業務的な課題として受け取ってもらいやすい。
転職でできること
タイプ別の残業実態を整理すると、残業時間の少ない順に以下の方向性がある。
- 社内SE(月10〜25時間が多い)
- 大手メガベンチャー・Web系(月20〜35時間が多い)
- 自社開発(大手・安定フェーズ)(月20〜40時間)
- SES(現場次第だが、官公庁系は比較的少ない)
- 自社開発(スタートアップ)(繁忙期は月60時間超えも)
- 大手SIer(プロジェクト次第で月60〜100時間も)
ただし、残業時間と年収・技術成長・やりがいはトレードオフになることが多い。「残業が少ないだけでなく、自分のキャリアにとって何が最も重要か」を整理した上で転職先を選ぶことが、後悔のない選択に繋がる。
SESと自社開発の詳細な比較は以下の記事で確認できる。
SESと自社開発はどっちがいい?経験者が語る本音の比較
残業・年収・スキルアップ・働き方の4軸でSESと自社開発をフラットに比較。自分に合った選択をするための判断基準を整理できる。
ホワイトIT企業の見分け方については以下の記事も参考にしてほしい。
ホワイトIT企業の転職ガイド|面接・カジュアル面談で確認する評価軸
「残業が少ない」だけでは騙される。面接で実態を引き出すための質問リストを公開。

まとめ:企業タイプ別の残業実態を転職前に把握する
IT企業の残業実態は、タイプによって月10時間から月100時間以上まで大きく異なる。
5タイプの残業実態まとめ:
- SIer: プロジェクトフェーズで激変。リリース前後は月60〜100時間以上も。大手は残業代全額支給
- SES: 現場(客先)が決める。官公庁系は少なく、新規開発現場の末期は多い
- 自社開発(スタートアップ): 成長フェーズは月60〜80時間超えも。「当事者意識」が長時間労働を生む
- 自社開発(大手メガベンチャー): 月20〜40時間が多く、残業管理が整備されている
- Web系(技術特化): 月20〜35時間。技術力重視の文化が長時間労働を抑制
- 社内SE: 月10〜25時間が最も少ない。ただし年収・技術成長とのトレードオフがある
転職活動では、求人票の「月平均○時間」だけを信じず、面接で「最も残業が多かった月」「残業代の計算方法」を直接確認することが重要だ。
