「SESはやめとけ、自社開発に行け」は半分ウソだ
ネットで「SES」と検索すると、「やめとけ」「ブラック」「将来性なし」という記事が山ほど出てくる。逆に自社開発は「モダン技術」「高年収」「キラキラ」みたいなイメージで語られる。
だが、自社開発に転職すれば全員が幸せになるわけではない。
社員20人のスタートアップに入ったら、入社3ヶ月で事業ピボット。SESの方が安定していた。メガベンチャーに入ったら、周りが優秀すぎてプレッシャーで潰れそうになった。自社開発に入ったのに、実態は受託開発ばかりだった——こういう話は実際にある。
SESにもメリットがある。自社開発にもデメリットがある。大事なのは「どっちが上か」ではなく、**「自分にはどっちが合うか」**だ。
この記事では、SESと自社開発をフラットに比較する。「自社開発最高」の空気に流されず、自分に合った選択をするための材料を提供する。
ビジネスモデルの違いを理解する
SESと自社開発の違いは、何で稼いでいるかが根本的に違う。これがすべての差に繋がる。
| SES | 自社開発 | |
|---|---|---|
| 収益源 | エンジニアの稼働時間 | プロダクトの売上 |
| 顧客 | クライアント企業 | エンドユーザー |
| 勤務地 | 客先 | 自社オフィス/リモート |
| 技術選定 | クライアントが決める | 自社で決める |
| 開発期間 | 契約期間(数ヶ月〜1年) | 継続的(終わりなし) |
SESは「人の稼働時間」を売っている。だからエンジニアが働いた時間=売上になる。自社開発は「プロダクト」を売っている。だからプロダクトが成長すれば、同じ人数でも売上が伸びる。
この構造の違いが、年収、働き方、評価制度のすべてに影響する。

年収:同じスキルで100〜200万円の差
一番気になるであろう年収から比較する。
経験年数別の比較
| 経験年数 | SES | 自社開発 | 差額 |
|---|---|---|---|
| 3年目 | 380万円 | 500万円 | +120万円 |
| 5年目 | 450万円 | 600万円 | +150万円 |
| 7年目 | 550万円 | 750万円 | +200万円 |
あくまで目安だが、同じスキルでも自社開発の方が100万〜200万円高い傾向がある。
なぜ差が生まれるのか
SESの年収が低い理由は、多重下請構造の中間マージンと還元率の問題だ。クライアントが月100万円払っていても、エンジニアの手取りは25〜35万円程度になることがある。
自社開発では中間マージンがない。さらに、エンジニアの成果がプロダクトの売上に直結するため、スキルが高い人ほど給与に反映されやすい。
ただし例外もある
- 高還元SES(還元率70%以上)なら、中小の自社開発と年収が変わらないこともある
- スタートアップは資金に限りがあるため、SESより年収が低いケースもある
- 大手SIerは自社開発ではないが、年収はSESより高い
「自社開発=高年収」と単純化するのは危険だ。企業の規模、ステージ、ビジネスモデルによって変わる。
働き方:自由度 vs 安定感
SESの働き方
良い面:
- 契約時間が明記されているため、大幅な残業が発生しにくい
- プロジェクトの最終責任はクライアント側にあるため、精神的な負担が限定的
- 現場が変わるので、合わない環境をリセットできる
- 様々な企業文化を経験できる
きつい面:
- 客先常駐が基本。勤務地は選べない
- 現場が頻繁に変わり、人間関係をゼロから構築
- 帰属意識を持ちにくく、孤独を感じやすい
- リモートワークが選べないことが多い
自社開発の働き方
良い面:
- 自社オフィスまたはリモートで安定した勤務
- 同じチームで長期的に関係を築ける
- 技術選定やプロダクトの方向性に関われる
- リモートワーク導入率が高い
きつい面:
- プロダクトの成功に責任を感じるプレッシャー
- 障害対応やリリース前は残業が増える
- 同じチームの人間関係が固定化(合わないと逃げ場がない)
- ベンチャーだと「何でもやる」文化で業務範囲が曖昧
本音の比較
SESの方が「楽」だという声は実は結構ある。契約範囲内の仕事をすればよく、現場が合わなければ数ヶ月で変わる。精神的な負担は自社開発の方が大きいケースもある。
一方、自社開発は「やりがい」と「安定した環境」を得られる。自分が作ったものがユーザーに使われ、反応が返ってくる体験はSESでは得にくい。
「楽さ」を求めるならSES、「やりがいと安定」を求めるなら自社開発——これが正直なところだ。
スキルアップ:幅 vs 深さ
SESのスキルアップ
身につきやすい:
- 複数の言語・フレームワークの幅広い経験
- 新しい環境への適応力
- コミュニケーション能力(毎回初対面のチームで働く)
- 様々な業界の業務知識
身につきにくい:
- 一つの技術を深掘りする機会
- 設計や技術選定の経験
- プロダクトを長期運用するノウハウ
- CI/CDやインフラ構築など「仕組みを作る」経験
SESは幅広い経験が積める反面、どれも浅くなりがち。3年間で5つの現場を経験しても、「どれも半年以下の関わり」だとアピールしにくい。
自社開発のスキルアップ
身につきやすい:
- 特定技術の深い知識
- 設計力(アーキテクチャ設計、DB設計)
- プロダクトの企画→開発→運用の一連の流れ
- CI/CD、自動テスト、パフォーマンスチューニング
身につきにくい:
- 幅広い言語・技術の経験
- 異なる業界の業務知識
- 「何でも対応できる」汎用性
自社開発は特定の技術を深く掘れる反面、使う技術が限定的になりがち。同じプロダクトを3年触り続けると、「Reactしかできません」みたいな状態になるリスクもある。
どちらが市場価値が高いか
正直、ケースバイケースだ。
- スペシャリストを求める企業 → 自社開発の深い経験が有利
- 何でもできる人を求める企業 → SESの幅広い経験が有利
- 特定業界のシステムを作る企業 → SESの業界知識が武器になることも
「自社開発の方が市場価値が高い」と一概には言えない。
SESでスキルがつかない原因と脱出法|現場内外の戦略
SESでスキルが伸びない構造的理由と、今すぐできる対策を解説。
入社難易度:現実的に受かるか
SES(難易度: 低〜中)
未経験からでも入れる。IT業界への入口として最もハードルが低い。
採用で見られるポイント:
- ITへの興味・学習意欲
- コミュニケーション能力
- ビジネスマナー
面接1〜2回で内定が出ることも多い。研修制度が整っている企業もある。
自社開発(難易度: 中〜高)
実務経験者を求める傾向が強い。未経験からの直接入社は非常に難しい。
採用で見られるポイント:
- コーディング試験(企業によっては必須)
- ポートフォリオ・個人開発の実績
- 技術的な深い質問への回答力
- チームでの協働経験
- カルチャーフィット
面接3〜4回、コーディング試験あり、というのは珍しくない。
現実的なルート
未経験からいきなり自社開発に入るのは難しい。まずSESで2〜3年の実務経験を積み、その後自社開発に転職するというルートが現実的だ。
| ステージ | 選択肢 |
|---|---|
| 未経験〜1年目 | SES(まず実務経験を積む) |
| 2〜3年目 | 自社開発への転職を検討する時期 |
| 4年目以降 | スキルを活かして年収・キャリアアップ |
SESは「ゴール」ではなく「通過点」として使うのが戦略的だ。ただし、SESの働き方が自分に合っていると感じるなら、高還元SESに移って長く続けるのも一つの正解だ。
「自社開発に行けば幸せになれる」のウソ
自社開発に対する幻想を持ちすぎると、転職後にギャップで苦しむ。よくある誤解を挙げておく。
誤解1: 自社開発は全部モダン技術
実際は、数年前に構築されたレガシーなコードベースを保守する仕事も多い。技術的負債と戦う日々になることもある。「入社したらReactで最先端の開発ができる」とは限らない。
誤解2: 残業が少ない
リリース前、障害対応時は深夜まで対応することもある。「自分のプロダクト」だから、SESのように「契約時間が来たから帰ります」とは言いにくい。責任感がある分、際限なく働いてしまう人もいる。
誤解3: 人間関係が楽
SESは現場が変わるから人間関係をリセットできる。自社開発は同じチームで何年も一緒に働く。もし合わない人がいたら、逃げ場がない。これは意外と大きなストレスになる。
誤解4: 全員が技術に強い
メガベンチャーなら技術力の高い人が多いが、中小の自社開発だと「少人数で何でもやる」状態になり、技術力が高いとは限らない。SESの大手SIer常駐の方が、技術力の高いエンジニアと一緒に働ける場合もある。
あなたにはどっちが合う?判断基準
SESが合う人
- 未経験からエンジニアになりたい — まずは入口として
- いろんな技術・業界を見たい — 複数のプロジェクトで幅を広げる
- 環境の変化を楽しめる — 新しい現場、新しい人に前向き
- ワークライフバランス最優先 — 契約時間内で帰りたい
- まだ自分の方向性が定まっていない — 経験しながら考えたい
自社開発が合う人
- 一つのプロダクトに深く関わりたい — 企画→開発→運用を一貫で
- 技術選定や設計に関わりたい — 使う技術を自分で決めたい
- 安定した勤務環境がほしい — 勤務地が変わるのがストレス
- 年収を上げたい — SESの天井を超えたい
- 2年以上の実務経験がある — 入社のハードルを超えられるスキルがある
結局、正解はない
SESが合う人もいれば、自社開発が合う人もいる。大事なのは自分の価値観とキャリアステージに合った選択をすることだ。
「自社開発に行かないとダメ」なんてことはない。SESで働きながら高還元の企業で年収600万円を稼ぎ、ワークライフバランスを保っている人もいる。
SESから自社開発へ転職したい場合
SESから自社開発への具体的な転職戦略は、以下の記事で詳しく解説している。
- SES Javaエンジニアが自社開発企業へ転職する方法 — Java経験者向けの具体的ロードマップ
- SESを辞めたい人の転職先の選び方 — 6つの転職先を理由別に比較
- SES3年目は転職のベストタイミング? — 3年目で動くべき理由
転職を本格的に考えるなら、まずはIT特化型のエージェントに相談して自分の市場価値を確認するのが効率的だ。

SESを辞めたい人の転職先の選び方|理由別おすすめと成功事例
「辞めたい理由」から逆算して転職先を選ぶ方法。6つの転職先を徹底比較。
まとめ:フラットに比較した上で、自分で決める
| 観点 | SES | 自社開発 |
|---|---|---|
| 年収 | 400万〜650万円 | 450万〜800万円+ |
| 入社難易度 | 低〜中 | 中〜高 |
| 技術の幅 | 広い(浅め) | 狭い(深い) |
| 働き方の安定 | 低(現場が変わる) | 高(固定) |
| やりがい | 案件次第 | プロダクトの成長を実感 |
| ワークライフバランス | 良好な傾向 | 案件次第(忙しいことも) |
「SESはダメ、自社開発に行くべき」——この論調に流されてはいけない。
SESには「幅広い経験」「環境の変化」「ワークライフバランス」というメリットがある。自社開発には「年収」「深い技術力」「プロダクトへの愛着」というメリットがある。
自分が何を最も大切にするかを考え、それに合った選択をしてほしい。どちらを選んでも、正解にできるのは自分次第だ。
