IT人材79万人不足——それでもSESの将来が安泰とは言えない理由
経済産業省の「IT人材需給に関する調査」(2019年)では、2030年に最大79万人のIT人材が不足すると試算されている。この数字だけ見れば、SESの仕事がなくなることはない。
だが、「SESエンジニア個人」の将来性は別の話だ。
IT人材が足りないのは事実だとしても、SESという構造の中にいる限り、年収の天井、スキルの陳腐化、案件ガチャというリスクから逃れられない。79万人不足の恩恵を受けるのは「市場価値の高いエンジニア」であって、「SESに在籍しているだけのエンジニア」ではない。
ここを混同すると、判断を誤る。
| 年度 | 不足人数(低位シナリオ) | 不足人数(高位シナリオ) |
|---|---|---|
| 2020年 | 約30万人 | 約45万人 |
| 2025年 | 約36万人 | 約59万人 |
| 2030年 | 約45万人 | 約79万人 |
出典:経済産業省「IT人材需給に関する調査」(2019年3月)
数字の裏側を見てほしい。不足するのは「先端IT人材」——AI、クラウド、セキュリティなどの高度スキルを持つ層だ。従来型IT人材は、逆に余剰になると同じ報告書が指摘している。SESで保守・運用だけをこなしている人材は、この「余剰側」に入る可能性がある。
SESエンジニアの「賞味期限」を決める3つの要因
SESエンジニアの市場価値がいつまで持つかは、以下の3つで決まる。
技術の鮮度
SESの現場では、クライアント企業のシステムに依存する。配属先がレガシーシステムの保守案件なら、Java 6やCOBOL、VB.NETといった古い技術しか触れない。
問題は、こうした案件に2〜3年いると、転職市場での評価が急落することだ。dodaの求人データ(2025年)を見ると、求人の70%以上がReact、TypeScript、AWS、Dockerなどのモダン技術を要件に含めている。レガシー技術だけでは、応募できる求人が3割以下に絞られる。
案件の質
SESでは「案件ガチャ」と呼ばれる問題がある。営業の都合で、スキルアップにつながらない案件に配属されるリスクだ。
- 設計・開発フェーズに関われる案件 → 市場価値が上がる
- テスト消化、運用監視、ドキュメント整備だけの案件 → 市場価値が下がる
同じ3年間SESで働いても、どんな案件を経験したかで転職時の評価は天と地ほど違う。「SES経験3年」ではなく「何をやったか」が見られる。
年齢と単価のバランス
SESのビジネスモデルは「エンジニアの稼働時間を売る」構造だ。クライアントが月80万円払い、SES企業が30〜40%を取り、残りがエンジニアの取り分になる。
年齢が上がると、エンジニア側の人件費も上がる。だが単価を上げるには、それに見合うスキルや経験が必要だ。スキルが横ばいのまま年齢だけ重ねると、「コストに見合わない人材」として案件が決まりにくくなる。
筆者の見る限り、SESで35歳以上の案件決定率が下がるのは、この構造的な問題が原因だ。

AIはSESエンジニアの敵か味方か
GitHub CopilotやChatGPTの登場で、「エンジニアの仕事がAIに奪われる」という話が出ている。正直に言えば、SESエンジニアへの影響は二極化する。
脅かされる仕事
- 定型的なコーディング(テンプレートに沿った画面作成、CRUD実装など)
- テストケースの作成・実行
- ドキュメント生成
- 簡単なバグ修正
これらはAIが得意とする領域であり、単価が下がるか、そもそも人が不要になる可能性がある。SESで「コーディングだけ」「テストだけ」のポジションにいる人は、危機感を持った方がいい。
AIに奪われにくい仕事
- 要件定義(ビジネス側との折衝、曖昧な要望の具体化)
- アーキテクチャ設計(技術選定、非機能要件の考慮)
- 障害対応(予期しない問題の切り分けと判断)
- チームマネジメント
- クライアントとのコミュニケーション
こうした「上流工程」や「人間同士のやりとり」は、当面AIに置き換わらない。
つまり、AIはSESエンジニアの敵にも味方にもなる。AIを使いこなして生産性を上げられるエンジニアは市場価値が上がるし、AIに代替される作業しかしていないエンジニアは厳しくなる。
結論:AIを「使う側」に回れ。 現場で生成AIを活用し、コードレビューや設計の補助に使う経験は、今後の転職市場で確実に評価される。
年代別・現実的なキャリア戦略
将来性に不安を感じているなら、年代別に取れる打ち手を整理しておこう。ポイントは「いつ動くか」だ。早いほど選択肢が多い。
20代——選択肢が最も広い時期
20代はSESからの脱出が最もしやすい時期だ。「実務経験2〜3年」があれば、自社開発企業もSIerもフリーランスも選べる。
やるべきこと:
- 1つの技術を深く掘る(「広く浅く」より「狭く深く」が転職市場では有利)
- AWS認定や基本情報技術者など、客観的にスキルを証明できる資格を取る
- 転職サイトに登録してスカウトの反応を見る。自分の市場価値を数字で把握することが大事だ
SES3年目が転職の好機だ。「実務経験3年以上」を条件とする求人に応募できるようになり、選択肢が一気に広がる。詳しくは「SES3年目は転職のベストタイミング?年収UP成功戦略」を読んでほしい。
30代前半——「即戦力」で勝負する最後のチャンス
30代前半は、まだキャリアチェンジが現実的に可能な年代だ。ただし、20代のように「ポテンシャル採用」は期待できない。即戦力として何ができるかを明確にする必要がある。
やるべきこと:
- 得意分野を1つに絞る(クラウド、セキュリティ、データエンジニアリングなど)
- AWS Solutions Architect Professionalなどの上位資格で専門性を証明する
- リーダー経験があればアピール材料にする。後輩指導、チーム管理、顧客折衝の経験は想像以上に評価される
35歳を超えると、未経験領域への転職は急激に難しくなる。「あと2〜3年は今の環境でいいか」と先送りすると、動けなくなるリスクがある。
30代後半〜40代——専門性かマネジメントか、二択になる
40代のSESエンジニアが市場で生き残るには、「この人にしかできない」と思わせる専門性か、マネジメント能力のどちらかが必須になる。
専門性路線: 特定の技術領域で第一人者を目指す。SAPコンサルタント、セキュリティスペシャリスト、データベースエンジニアなど、希少価値のあるポジションなら年齢のハンデを技術力で上書きできる。
マネジメント路線: プロジェクトマネージャーや組織マネジメントに移行する。技術がわかるマネージャーは常に不足しているため、開発経験×マネジメント能力の掛け合わせは強い。
いずれにせよ、40代でSESに残る場合は月単価100万円以上が一つの目安だ。それ以下の単価帯は若手との競争になり、年齢で不利になる。
SESを「踏み台」にするための具体的な行動
SESの将来性を心配するより、SESを踏み台にして次のキャリアに進む方が建設的だ。今すぐ始められる行動をまとめた。
行動1:自分の市場価値を数字で把握する
転職サイトに登録して、スカウトが来る年収帯と求人の質を確認する。これだけで「今の自分がどう評価されているか」がわかる。
感覚的な不安を数字に変えることで、「あと何が足りないか」が具体的になる。
行動2:現場で「上流」に食い込む
SESの現場にいるなら、今の案件の中で少しでも上流工程に関わる努力をする。
- 設計レビューへの参加を申し出る
- 改善提案を自ら持ち込む
- 後輩の指導役を引き受ける
「言われたことだけやる」エンジニアと「自分から動く」エンジニアでは、同じSES3年でも職務経歴書の中身がまるで違う。
行動3:副業・個人開発でモダン技術に触れる
現場がレガシー技術ばかりなら、業務外でモダン技術を学ぶしかない。React、TypeScript、Docker、AWSあたりを個人開発で触っておけば、転職時にアピールできる。
GitHubにコードを公開し、ポートフォリオとして見せられる状態にしておくのが理想だ。
行動4:資格で客観的な証明を作る
SESの現場経験だけでは、スキルの証明が難しい場合がある。AWS認定資格、情報処理技術者試験などの資格は、「何ができるか」を第三者に示す武器になる。
特にAWS Solutions Architect Associateは、Web系・クラウド系企業への転職で評価されやすい。学習期間は2〜3ヶ月が目安だ。
SESで年収が上がらない5つの構造的理由|還元率の計算方法と脱出戦略
年収の構造的な問題を理解して、打ち手を選ぶ。将来性不安の背景にある仕組みを解説。
SESを辞めたい人の転職先の選び方|理由別おすすめと成功事例
辞めたい理由から逆算した転職先選び。経験年数別の現実的な選択肢も紹介。
転職を選ぶなら、今の市場を知ることから始める
SESの将来性に不安を感じているなら、まず自分の市場価値を正確に把握するところから始めてほしい。
転職エージェントを使うなら、SESの給与構造を理解しているところを選ぶべきだ。「還元率が60%で」と言って通じるかどうかで、サポートの質が変わる。
TechGo はアドバイザーの8割が元エンジニア・ITコンサル出身で、SESの構造を熟知している。「将来性が不安」という漠然とした相談でも、市場データに基づいた具体的な選択肢を提示してくれる。

SESでスキルがつかない原因と脱出法|現場内外の戦略
現場でもできるスキルアップ術と、環境を変える転職判断のタイミングを解説。
SESの将来性は「構造」で決まる——個人にできるのは構造の外に出ること
SES業界自体は、IT人材不足を背景に今後も存続する。企業がエンジニアを自社で採用しきれない限り、SESの需要はなくならない。
だが、SESという構造の中にいる限り、年収には天井があり、案件は選べず、スキルは現場次第だ。この構造的な制約は、個人の努力だけでは根本的に変えられない。
できることは2つ。構造の中で最大限のスキルと経験を積むか、構造の外に出るかだ。
どちらを選ぶにしても、「何もしない」が最悪の選択だ。将来への不安を感じている時点で、あなたはすでにキャリアと向き合っている。その感覚を信じて、今日から1つでも行動を起こしてほしい。
