Web系=高年収という幻想が、転職後の後悔を生んでいる
「SESを辞めてWeb系に転職したら、年収が30万円下がった」——この話は珍しくない。
転職情報サイトに載っているWeb系エンジニアの求人を見ると、「年収500万〜800万円」「年収1000万円も目指せる」という数字が並ぶ。しかし現実には、転職直後に年収が下がるエンジニアが一定数いる。
その理由は単純だ。求人票の「年収レンジ」は上位20%の数字で書かれることが多く、入社時の実際の年収は中央値より下になることがある。スタートアップの「年収600万〜1000万円」という求人に入社しても、入社時点では600万円以下からスタートするケースも多い。
Web系エンジニアの年収が「高い」と言われる理由は本物だ。だが、全員が高年収になれるわけではない。高年収になれるケースと、なれないケースをフラットに整理する。
Web系エンジニアの年収相場データ(2026年現在)
まず現実の数字から始める。
企業タイプ別の年収レンジ
| 企業タイプ | 入社時年収 | 5年後の目安 | 天井感 |
|---|---|---|---|
| メガベンチャー(上場大手) | 550万〜750万円 | 700万〜1000万円 | 比較的高い |
| 外資IT | 700万〜1000万円 | 1000万〜1500万円 | 高い |
| スタートアップ(シリーズB以降) | 400万〜650万円 | 600万〜1000万円 | 成長次第 |
| スタートアップ(アーリー) | 350万〜550万円 | 不確実 | リスクあり |
| 中小Web企業 | 380万〜520万円 | 500万〜650万円 | 低め |
| SES(比較) | 380万〜500万円 | 430万〜600万円 | 構造的な天井 |
「Web系=SESより高い」は大手・外資・上位スタートアップに限った話であり、中小Web企業ではSESと大きく変わらない場合もある。
職種別の年収差
同じ「Webエンジニア」でも、担当領域によって年収は変わる。
| 職種 | 平均年収 | SESとの差 |
|---|---|---|
| バックエンド(Go/Rust) | 620万〜850万円 | +150万〜250万円 |
| バックエンド(PHP/Python) | 500万〜700万円 | +50万〜150万円 |
| フロントエンド(React/TS) | 480万〜680万円 | +30万〜100万円 |
| フルスタック | 550万〜750万円 | +100万〜200万円 |
| インフラ/SRE | 650万〜900万円 | +200万〜350万円 |
フロントエンドの年収はバックエンドやインフラに比べて低い傾向がある。この構造的な理由については後述する。

年収が下がる4つのケース
Web系エンジニアに転職して年収が下がるケースには、パターンがある。
ケース1: スタートアップの「上澄み」を信じた
求人票に「年収600万〜1200万円」と書かれていた。面接では「IPO後はストックオプションで大きなリターンがある」と言われた。
実際の入社年収は550万円。前職のSESは520万円だったから微増だが、残業が増えた分、時給換算では下がった。
アーリーステージのスタートアップでは、資金調達の状況によって給与水準が大きく変わる。ストックオプションが価値を持つのは、IPOか大規模バイアウトが成功した場合だけだ。スタートアップの平均IPO確率は1〜2%以下ともいわれる。
ケース2: 「スキルを積む期間」として低年収を選んだ
「有名な自社開発企業で修行できるなら年収が下がってもいい」と判断して転職した。
これは一概に間違いではないが、低年収の期間が長引くリスクがある。スキルが積めても年収交渉の機会を逃し続けると、「この人は安く使える」という社内評価が固定化することもある。
スキルアップ目的での年収ダウン転職は、最大2年・100万円以内を目安にしておきたい。
ケース3: 中小Web企業の実態と乖離した
自社開発と書いてあったのに、実態は受託案件が60%。メンバーは10人以下で、技術スタックは5年前から更新されていない。給与レンジも頭打ちで、入社2年目には上限に近づいた。
「自社開発=メガベンチャー水準」ではない。企業規模・プロダクトのグロース状況・技術投資の姿勢を確認しないと、SESと変わらない待遇に落ち着くことがある。
ケース4: フロントエンド専業での転職
「ReactとTypeScriptが書ければ年収が上がる」と信じて転職したが、競合が多く年収交渉力が弱かった。
フロントエンドの求人は多いが、応募者も多い。特に「Reactが書ける」だけでは差別化にならない。この問題の構造的背景は後述する。
SESで年収が上がらない構造的な理由と解決策
SESの多重下請構造と還元率の仕組みを理解し、転職前の比較材料にする。
年収が本当に上がるケースと条件
ここからは、実際に年収が大幅に上がるパターンを整理する。
高年収パターン1: 外資・メガベンチャーへの直接転職
GAFAMやLINEヤフー・楽天・メルカリクラスの企業に転職できれば、年収は一気に上がる。
必要条件:
- 大規模サービスの設計・実装経験(ユーザー数10万人以上のシステム)
- アルゴリズム・データ構造の深い理解(コーディング試験を突破できるレベル)
- 英語力(外資の場合はBusiness Levelが必要なことが多い)
- 特定の希少スキル(SRE・セキュリティ・機械学習エンジニアリングなど)
これらの条件を満たさない状態での応募は書類選考で落ちることが多い。
高年収パターン2: 技術スペシャリストとしてのポジション確立
GoやRustなどの高単価言語、または分散システム・リアルタイム処理などの専門領域での実績を持つエンジニアは、企業規模によらず高い年収オファーを受けやすい。
年収アップに繋がるスペシャリスト領域:
| 領域 | 年収レンジ | 希少度 |
|---|---|---|
| セキュリティエンジニア | 700万〜1000万円 | 高 |
| SRE/プラットフォームエンジニア | 700万〜950万円 | 高 |
| データエンジニア(大規模) | 650万〜900万円 | 中 |
| 機械学習エンジニア | 650万〜950万円 | 中 |
| Go/Rustバックエンド | 620万〜850万円 | 中 |
高年収パターン3: スタートアップのストックオプション行使
アーリーステージでストックオプションをもらい、IPOまで在籍する場合、現金年収が低くても最終的なリターンが大きいケースがある。
ただし前述の通り、IPOに至る確率は低い。ストックオプションを年収換算に含めて意思決定するのは慎重に行う必要がある。
高年収パターン4: 3〜5年後の計画的な再転職
最初の転職では年収ダウンを許容しても、メガベンチャー水準での3〜5年間の実績を積んでから再転職することで、年収を大幅に上げられるケースがある。
自社開発の有名企業での経験は転職市場での評価が高い。「〇〇社でフルスタック開発を3年」というキャリアは、年収交渉の武器になる。
年収が下がりやすいフロントエンドの構造問題
フロントエンドエンジニアの年収が伸び悩む傾向は、構造的な問題によるものだ。
参入障壁が下がり続けている
ReactとTypeScriptの普及により、フロントエンドの基礎は「3〜6ヶ月の学習で習得できる」と認識されるようになった。プログラミングスクールでもReact/TypeScriptコースが充実しており、未経験からフロントエンドエンジニアになる人が増えた。
供給が増えれば、交渉力は下がる。「Reactが書ける」という条件だけでは年収交渉の優位性を持てない。
バックエンドとの評価差
多くの企業でフロントエンドは「UIを作る人」として評価されがちで、バックエンドの「サーバー・DBを設計する人」より評価が低い場合がある。
これは不公平だと思うかもしれないが、ビジネス上の判断から来ている。データ基盤・APIの設計ミスはシステム全体に波及するが、UIの問題は比較的局所的に修正できる——と企業が判断することがある。
フロントエンドで年収を上げる方法
この構造問題を理解した上で、フロントエンドで高年収を目指すなら:
- バックエンドを習得してフルスタック化 — 希少価値が上がる
- パフォーマンス最適化・アーキテクチャ設計の専門性 — 誰でもできる仕事ではなくなる
- マネジメント路線 — テックリード・エンジニアリングマネージャーへのキャリアパス
- 外資・メガベンチャーへの転職 — 技術力が適切に評価されやすい
システムエンジニアの年収相場を徹底解説|年代・スキル・企業規模別
SE全般の年収相場データ。Web系と他の業態を比較する際の参考にする。
SESとの年収比較:正直な数字
SESからWeb系への転職を考えているなら、以下の比較を参考にしてほしい。
経験3年目での比較
| 転職先 | 入社時年収 | 5年目年収 | リスク |
|---|---|---|---|
| SES(高還元・現状維持) | 450万〜520万円 | 500万〜600万円 | 低い |
| 中小Web企業 | 420万〜520万円 | 500万〜640万円 | 中程度 |
| 成長期スタートアップ | 480万〜600万円 | 600万〜900万円(不確実) | 高い |
| メガベンチャー | 550万〜700万円 | 700万〜1000万円 | 低〜中 |
「SESより絶対に上がる」という保証はない。転職先の企業タイプ、入社時の年収交渉、その後のスキルアップと再転職戦略が組み合わさって、初めて年収アップになる。
SESの年収が低い本当の理由
SESの年収が低い理由は多重下請構造にある。クライアントが月80万円払っていても、エンジニアの手取りは25〜30万円程度になることがある。この構造についてはSESで年収が上がらない理由と脱出戦略で詳しく解説している。
Web系自社開発では、この中間マージンがない分、スキルが収入に反映されやすい。ただし前述の通り、企業の規模とステージによって大きく変わる。
年収を上げるために今すぐ始めるべきこと
年収アップのための具体的なアクションを整理する。
現状把握: 自分の市場価値を確認する
転職エージェントに登録して、スキルシートを送り、「今の自分に年収〇〇万円は出しますか?」という感触を掴む。これは無料でできる。
複数のエージェントから似たような数字が返ってくれば、それが現在の市場評価だ。数字が予想より低ければ、まずスキルアップが先の課題になる。
スキル投資: 年収に直結するスキルを選ぶ
投資効果の高いスキルは以下の通り:
| スキル | 年収への効果 | 習得難易度 |
|---|---|---|
| AWS(認定資格取得) | +50万〜100万円 | 中 |
| Go言語 | +50万〜100万円 | 高 |
| Docker/Kubernetes | +30万〜70万円 | 中 |
| TypeScript(深い理解) | +20万〜50万円 | 低〜中 |
| セキュリティ(実務レベル) | +80万〜150万円 | 高 |
スキルアップで年収に直結させたいなら、個人レッスン形式のスクールを使うのも一つの手だ。独学で迷うよりも、体系的なカリキュラムで短期集中した方が転職市場での評価が高いスキルを効率的に習得できる。
SESと自社開発はどっちがいい?経験者が語る本音の比較
SES vs 自社開発の年収・働き方・スキルアップを正直に比較した記事。
まとめ:「上がるはず」ではなく「上げる計画」を持つ
Web系エンジニアの年収が高いという話には根拠がある。外資・メガベンチャーであれば、30代で700万〜1000万円以上を狙える環境が確かにある。
しかし、中小Web企業への転職では年収が変わらない・下がるケースがある。スタートアップのストックオプションは確率論的な話であり、確実な年収計算には入れにくい。フロントエンド専業では供給過多による年収低下圧力がある。
現実を踏まえた上で、年収を上げるための計画を持つ:
- 転職先の企業タイプを慎重に選ぶ——中小Web企業よりメガベンチャー・外資
- スペシャリスト領域を作る——「何でもできる人」より「〇〇が深い人」
- 2ステップ戦略——最初の転職は経歴、次の転職で年収を最大化
「Web系に転職すれば年収が上がる」ではなく、「どの企業に・どのスキルで転職するか」が年収を決める。これが正直な結論だ。

